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「まちつく」はこうして始まった!真岡から考える、真に民主化したまちづくりのカタチ


2021年に始まった、真岡まちづくりプロジェクト(通称まちつく)。高校生〜社会人の有志メンバーが、これまで活用されていなかった公共施設や緑地に賑わいを生み出すなど、まちに関わる人の「あんなこといいな」を形にする取り組みを進めています。2022年には第2期を募集し、高校生・大学生41人とサポートする大人メンバーで新たな社会実験を始めました。

様々なアイデアが生まれ、形になるまちつく。そんなプロジェクトを牽引してきたのがこの3人です。

真岡市総合政策部 プロジェクト推進課 複合交流拠点整備係の係長、林大輔さん。

林 大輔(はやし だいすけ) 1975年生まれ。兵庫県明石市出身。東北大学教育学部を卒業後、1998年に真岡市役所入庁。市役所新庁舎の建設などに携わり、2018年から図書館、子育て支援センターを含む複合交流拠点の建設担当。2021年から真岡まちづくりプロジェクトを実施。

宇都宮大学地域デザイン科学部准教授、石井大一朗さん。

石井 大一朗(いしい だいいちろう) 1972年生まれ。設計事務所勤務後、阪神淡路大震災を契機にまちづくり会社を設立。慶應義塾大学大学院でコミュニティ政策を学ぶ。その後、神奈川県を中心に在宅福祉のまちづくり活動の支援を行う認定NPO法人市民セクターよこはま理事、横浜市市民活動センター副センター長などを担い、NPOやボランティア支援に従事。東日本大震災後は、岩手県大槌町や福島県二本松市においてNPO活動や地域交流拠点づくり支援に5年間従事。2015年宇都宮大学着任。

栃木県下野市を中心に活動する一般社団法人シモツケクリエイティブ代表理事の山口貴明さん。

山口 貴明(やまぐち たかあき) 1976年生まれ。栃木県下野市出身。2011年、一級建築士事務所AMPworksを創業し、住宅設計や店舗デザインを行いながら、地元をもっと楽しくしようと市内有志で一般社団法人シモツケクリエイティブを創設。公園エリアの管理や古民家カフェ「 10picnictables」、アグリツーリズムの拠点施設「吉田村village」の運営など、多くの地域活性事業を手掛ける。

3人に、プロジェクトが始まって1年が経った今(※注 2022年7月時点)、第1回目のワークショップを行ったという国登録有形文化財の久保講堂に集まってもらいました。今回は、まちつくがどんな思いの上に作られ、どんな過程を辿ってきたのか、真岡市地域おこし協力隊のあわっちこと粟村が、改めて聞いてみたいと思います。

まちつくの始まり

粟村:今日はよろしくお願いします!

3人:お願いします。

粟村:まず、まちつくの始まりについて伺わせてください。林さんがお二人に声をかける形でまちつくが始まったと伺いましたが、何かきっかけがあったのですか?

:「まちは住んでいる人がつくっていくものなんだ」と実感したことがきっかけです。私は2017 年12月まで、真岡市役所の新庁舎の建設を担当していました。その後、岩手県の都市整備事業、オガール(https://ogal.info/)や、公募設置管理制度(Park-PFI)を活用したKIPPUSHI WATER NEIGHBORHOOD(https://kippushi.jp/)など、さまざまな自治体のまちづくり事例を視察したんです。

実際の施設を見て話を聞くと、現地でプロジェクトを推進しているのは住民の方々でした。面白そうにまちづくりに携わっている姿をみて、まちは、行政が都市計画をかっこよく振りかざしてつくっていくものではなく、住んでいる人がつくっていくものだと実感しました。

私自身は10歳の時、父の転勤のため関西から真岡に引っ越してきました。関西には良いものは良いと言う文化があったのですが、真岡では良いものがあっても良いと言わない。謙遜して慎ましやかにしている方が多い印象があります。

県外の大学に通い、地元に戻って市役所に入りましたが、大人になってもその印象は変わりませんでした。親も、長く真岡に住んでいる人も、真岡を「良い」と言わないんですよね。自分が住んでいるまちなのに、なんで卑下するのか不思議で、もどかしかったです。良いものは良いと言ったらいい。良いと思えないなら良くしていけばいい。そんな思いがありました。

ただ、市役所職員としてやりたいことやアイデアがあっても、行政の立場からだけでは実現できないことも多くて。限界を感じて、モヤモヤしていました。

そんな折、真岡市をもっとよくしたい、現状をもどかしいと感じている同年代の市民の人たちとの出会いがあったんです。一緒に何かしていこうと話すようになりました。

さらに、市長からも「ハード整備事業だけではなく、民間がまちづくりに参加できるような仕組みをつくってほしい」という要望があって。それなら自分がやってみたいと手を挙げて、本格的に市民協働のまちづくりを始めるために動き始めました。その中で、石井先生と山口さんにお声かけしたんですよね。2021年1月のことでした。

粟村:林さんの中に、市民の方々と一緒にまちをより良くする取り組みをしたいという思いがあったんですね。お二人は声をかけられた時、どんな風に感じましたか。

石井:真岡にはまちづくりをしていくために必要な要素が揃っていると感じました。その要素とは、行政の中にまちづくりに想いを持って動ける人がいること、トップ、つまり市長の賛同があること、実際にやりたいことを持ち動ける市民の方々がいること、です。

私はさまざまな自治体のまちづくりに関わっています。ある市では、お金を入れてプロジェクトを立ち上げても人を育てる意識がなく、数年経つと勢いが衰え、またお金に頼らざるを得なくなる悪循環に陥っていました。派手な絵は見せるけれど、何年か経つと潰れてしまう。私は麻薬型のまちづくりと呼んでいるんですけど。林さんに話を聞いて、真岡ではそうじゃないまちづくりができるのではないかと思ったんです。

すごいスター選手を生み出すよりも、たくさんのプレイヤーが集まってお互いが高め合うベースを作りたいと考えました。スター選手が一人走っていくのではなく、住民100人が一歩進めるまちづくりをしたいなと。

山口:確かに、他地域のまちづくり成功例を見てみると、ローカルスターがそのまちのカラーを創り出していく感じでしたよね。それがまちづくり第一世代だとすると、真岡はまちづくり第二世代だと感じます。私もお話を聞いたとき、AKB48みたいに、支えあえる仲間がどんどん増えてみんなで盛り上げていく光景を想像できました。誰か一人に頼る属人的なまちづくりになると未来に繋がらないですから。

石井:人任せになっちゃうよね。

山口:そうそう。他の街を見渡した時、真岡みたいにはじめからチームで挑もうというところが見当たりませんでした。だから関わりたいと思ったんです。

ただ、外からのコンサルが入り込んで好き勝手言うだけになるのは嫌だと思っていました。だから一番最初の講演で、参加してくれた真岡のメンバーに「仲間にしてください」とお願いしたんです。アドバイザーとして参加するけれど、真岡は僕が活動する下野市のお隣の市でもある身近な地域。僕自身の地域活動として参加するのでやらせてくださいとお伝えしました。


つぶやきからクリエイティブが生まれる。愛着を育むプラットフォームに

粟村:まちつくでは、ワークショップでアイデアを出して社会実験で形にしていく、という取り組みを進めてきたと思います。

例えば、こんな取り組みがありました。

●前期:ワークショップ
先進事例のインプットや、真岡のまちあるきを通して参加者がやりたいことを考案。やりたいことが近いメンバーごとにチームを作り、実際に何をするのか具体的に企画を考え発表していきました。
●後期:社会実験
考えるだけで終わりにせず、学生・大人が一緒に企画を実行していきました。2021年度は活用されていない公共施設や緑地を活用するべく、様々な企画が立ち上がりました。ドッグランの設置、ピクニックマルシェやイベント、文化財での高校生の活動発表会の開催、ベンチの制作、青空図書館の設置、オリジナルドリンク販売etc…多種多様な活動が形になりました。
真岡まちづくりプロジェクト

イベントに数千人が参加したり、市内の高校や文化団体とも連携したりするなど、活動の輪が広がっていったと思います。ゼロからプロジェクトを立ち上げ進める中で、どんなことを心がけましたか?

山口:まずメンバーの多様性です。まちつくの特徴として、高校生から社会人までさまざまな人が参加しています。こういうプロジェクトをすると、メンバーが偏ってしまってまちを舞台にする以上、最低限必要の公共性すら見失ってしまうことが多いんです。その点真岡は年代の幅が広く、大人のメンバーの中にもハード作りが得意な人からソフト作りが得意な人、誰かを応援すること、手伝うことが得意な人まで、バランスよく参加してくれました。かつ、すでにお互いの意見を聞き入れ、真岡をより良くしようとする共通認識がメンバー間に生まれていたので、そのメンバーたちの多様性と協調性を活かすことに心がけました。

粟村:メンバーは市で選考したんですよね?

:はい。たくさんの応募者から選ばせていただくのはとても難しかったです。マジョリティだけではなく、少数派の人も関われるように意識しました。行政の仕事としては、多数決で51人が賛成しているからやる、という判断でもいいと思いますが、それだけでは勿体無い。少数でも10人くらい「やりたい」という人がいて、そこに共感できる良さがあるなら出番を作りたいと考えています。

粟村:石井先生はいかがですか。

石井:自分が大事にしているのは、まず発言しやすい場の設計です。一人が声高に発言して決まってしまうような場ではなく、「良い」「おかしい」「面白い」などそれぞれが思ったことを呟ける場づくりを意識しました。例えば、私たちアドバイザーが仕切るのではなく大学生に進行してもらうようにしたり、付箋を使ってそれぞれ意見を出し合うようにしたり、おやつタイムや遊び道具を用意したりね。話し合いの場所も、会議室ではなく文化財や外で行うなど工夫しています。

山口:まちつくが、真岡についてつぶやけるプラットフォームになっていっていると思います。小さなつぶやきが、まちづくりに広がっていくところもいいですよね。

石井:そうそう。ただつぶやくだけではなく、そこからクリエイティブな行動を起こすことも大事です。何か課題が見つかったとして、すでにある解決方法をそのまま当てはめてやろうというのではなく、新しいものを生み出そうとするマインドセットを共有していると思います。

まちつくメンバーが増えていくことで、自治活動を楽しくしたり、民間活動をクリエイティブにしたり、既存の活動のスパイスになっていろいろな化学反応が生まれると思うんです。まちつくの活動だけで終わるのではなく、まち全体に良い循環を生み出すことも大事にしています。

林:2020年の五行川河川緑地、RIVER+での2回のマルシェとドッグランを利用してくださった方から、「期間限定ではなく、もっと利用したい」という要望がありました。さらに、「自分もやってみたい」「まちつくの取り組みをもっと知りたい」といった問い合わせや、相談もいただきます。

山口:言い方が合っているかはわからないですけど、まちつくって「蟻地獄」みたいですよね。やればやるほど愛着が湧いて、仲間ができて、楽しくて、気がついたらはまっていっちゃう。誰に言われてやるのでもなく、忙しい中で自分の時間を使って活動できるのはすごいことだと思うんです。理想的な言葉だけではなく、実際に行動することによって、達成感や地元への愛着を育める場になっていると思います。

林:それぞれが「あんなこといいな」と思うことを、「いいじゃん、いいじゃん」と言いながらやっていったら、みんなの目の色が変わっていきました。それをみた瞬間は鳥肌が立ちました。この活動を通して、みんな自分が住んでいるまちを好きだと言えるようになっていくといいと思っています。

カメラを向けると遊んでくれるのもまちつく流。これも楽しい場づくりの一つかも??


まちづくりは真の民主化の時代へ。楽しみながら、市民が対話し創造するまちを。

粟村:やりたいことや気づきをつぶやけて、それを実際に形にする場づくりを実践されてきたのですね。先ほど、「真岡のまちづくりは第二世代」というお話もありましたが、今後のまちづくりの展望を教えてください。山口さんからお願いできますか。

山口:はい。今僕は、いろいろなものが民主化されてきている時代だと感じています。SNSが発展したことで個人が自分の意見を述べて活動しやすくなったし、事業を行うにも会社や組合だけじゃないチームでの取り組みも増えました。例えば建築分野でいうと、これまで専門の技術者しかできなかったような作業を素人でもできるシステムや設備ができ、個人でさまざまなものが作れるようになりました。ITにより誰でも知識や技術を得られる時代です。これが進むと、まちづくりでも個人でできることが増え、従来のトップダウン型ではないまちづくりが進むと思うんですよ。

真岡でのまちづくりは、それに近いと思っています。第二世代のまちづくりは、真に民主化したまちづくりになるはずです。ただ、いきなりうまくいくものではなくて、この5~10年は新しいまちづくりのカタチが生まれる前のカオス状態になることもあると考えます。まちづくりをしていく上で、そのカオス状態も変化の過程として楽しめるかどうかが大事ですね。

石井:民主化は重要ですね。私は、まちは行政が作るものではなく市民や民間が作るものだと考えています。とはいえ、なかなかそれができないんですね。実現するために大事なのは、まち全体のことを自分を主語にして考えられる意識。パブリックマインドとも言えるものです。まちつくでは、メンバーがパブリックマインドを持って活動に取り組めたと感じています。

今後はさらに、パブリックマインドを持つ人を増やしていきたいですね。そのために大事になるのは、「市民的専門性」だと考えます。これは、自分と異なる他者と対話し、クリエイティブな思考をしていく上で重要な性質のことを指します。この言葉は、特定非営利活動法(NPO法)ができた90年代から使われてきました。しかし、本当の意味で広がったかというとそうではなくて…。一部の専門家化した市民が、行政と一緒に特権化したものを作り出すだけに止まり、裾野を広げられなかったという反省点があります。

反省を生かして、自分と異なる他者の意見を取り入れながら、まちを作っていける人を育てたい。最初に言ったように1人が引っ張るのではなく、100人が自分を主語に一歩踏み出せるまちづくりをしていきたいです。

林:これまで、公共のものは行政がつくり、市民は使うというのがスタンダードになっていたと感じます。行政側もそれじゃ良くないと気がつき、「市民協働」という旗を振り始めたのがこの10年かなと。ただ、外向きに聞こえが良いから行っているだけで、本気で市民協働に取り組む自治体は少ないと感じます。

「このまちでは、自分たちの願いを自分たちの手で叶えられる」と、どれだけ多くの市民に思ってもらえるか。それを作るのが行政の仕事だと思いますし、そこに本気で取り組もうとしているのがまちつくです。ここまで、石井先生と山口さんのおかげで順調に進めることができました。

この先にあるのは、市民と対話しながら公共を、まちをつくっていく時代であるはず。もちろん、市民の方々に押し付けるつもりはありません。そうではなくて、何かやりたいことがあって楽しく活動していたら、なんだか楽しいまちになった。そんな風に言える未来にしたいなと思っています。

粟村:ありがとうございました!

今回のお話を通して、まちつくは幅広い市民の方々が対話しながら創造する民主化したまちづくりを目指していること、それを実現するためのプラットフォームになっていっていることが感じられました。今後のまちつくはどうなっていくのか?引き続き活動の様子をレポートしていきます!

取材、文章、写真 : 粟村千愛(真岡市地域おこし協力隊)


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