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まちつくインタビューvol.8 阿藤結衣さん

「やってみたい」を言っていい。まちへ一歩、踏み出して見えた景色。

宇都宮大学でコミュニティデザインを学ぶ阿藤結衣さん。地域でまちづくりをしたいという思いで大学に進学しましたが、最初はその思いを行動に移せなかったと言います。そんな阿藤さんがまちへ一歩踏み出せたきっかけとは。そこで見えた景色とは?お話を伺います。

阿藤 結衣(あとう ゆい)

栃木県大田原市出身。宇都宮大学地域デザイン科学部コミュニティデザイン学科4年。

祭りや田植え…地域の大人との関わり

ー阿藤さんの今のご活動を教えてください。

阿藤:宇都宮大学地域デザイン科学部の4年生で、コミュニティデザインを学んでいます。今は主に、真岡まちづくりプロジェクト(以下、まちつく)と栃木県の那須塩原駅前のまちづくりに関わっています。

まちつくは2021年、メンバーとして関わり始めました。2年目となる今年は新しい高校生、大学生メンバーを迎え、運営として参加しています。一方で那須塩原での活動「#NasUushi(なすうーしー)」は、高校生、地域事業者、市役所が一体となって、今年度から始まりました。真岡での経験を生かしながら、コアメンバーとして関わっています。

ー実際にまちに出て活動されているんですね。まちづくりに興味を持ったきっかけは?

私は栃木県大田原市の出身で、小学生の頃に地域のお祭りや田植えで地域の人たちと関わる機会があったんです。普段は同じ学校の子としか話さないけれど、大人や別の学校の子たちと話せて、自分とは全然違う視点を知ることが楽しいなと感じていました。

活動自体も面白くて。例えば祭りの時は、お囃子を教えてもらうんです。まず太鼓を習いました。早く習得できると、他の子たちに教えるように。「子どもたちよろしくね」と任せてもらえて楽しかったですね。

しばらくすると笛も教えてもらえました。なかなか音が出なくて大変でしたが、大人の方々が、パイプに穴を開けて私が吹くための笛を作ってくれて嬉しかったです。。

ただ、中学生になるとそういった地域と関わる機会がなくなってしまいました。「中学生になったらさようなら、大人になったらまた来てね」という感じが寂しかったです。しかしすぐに部活と勉強で忙しくなり、日々を生きるのに精一杯になりました。

高校に入って、何がやりたいか進路を考えていたとき、その時のことを思い出したんです。中学生から地域との関わりがなくなってしまうのは残念だったな、と感じて、そこが繋がるように何かやりたいなと思いました。まちづくりを学べる学部を調べて、宇都宮大学の地域デザイン科学部に進学したんです。

ドッグランを実現。新しい景色が見えた

ーご自身の地域での体験が元になっていたんですね。大学に進学して、やりたかった活動はできましたか?

地域デザイン科学部はグループワークが多く、いろいろな人の話を聞く機会があって授業が楽しかったです。もともと人の話を聞くのが好きだったので、「そういう考え方もあるんだ」と毎日刺激がありました。

ただ、実際にまちづくりに関わる活動には、なかなか飛び込めなかったです。やってみたい気持ちはあったけれど、すぐには勇気が出なくて。どうしようと悩んで、石井大一朗先生のゼミに入りました。するとすぐに、真岡で新しく始まるまちづくりプロジェクトのメンバー募集があったんです。「これしかない」と思いました。一緒に何か新しい景色を作ってみたいと、参加することを決めました。

ーまちつくに参加してみていかがでしたか。

最初は何をやったらいいかもわからず不安でした。ただ、小学生以降あまり話す機会のなかった大人の方と話せるのは楽しいなと感じましたね。まちつくには高校生から大人まで参加していたので、大人ならではの視点を知れるのが面白かったです。

まち歩きのワークショップをやったとき、街中にドッグランがあったら需要があるだろうなと感じました。私自身犬を飼っていたので、そんな場所が欲しいなと思ったんです。案として煮詰まっていないなとは思ったのですが、何かやりたいことを出していこうという空気があったので、恐る恐る「ドッグランはどうですか?」と切り出しました。

するとすぐに「いいじゃん!」と反応が返ってきたんです。「材料は準備できるよ」「あれもあったほうが良いんじゃない」などとどんどん案が出てきました。否定されないことに安心しましたね。「やりたいことを言っても大丈夫なんだ」と思えました。

そこから話はトントン進んで、実際にドッグランを形にすることに。専門の人はいないので、自分が使ったことのあるドッグランを参考に、市内の他の施設と差別化も考えながら、ルールや実際の設備を作っていきました。

ー実際に形にされていったんですね!ゼロからつくる上で特に大変だったことは?

管理の問題ですね。いつもドッグランを見ていられるわけではないので、壊れてしまった時や汚れた時の対応をどうしようかと。入場料を取るとしたら、どうやって回収するのかという問題もありました。

最終的に、入場料は取らず、イベント時に寄付を募る形にしようと決定。壊れてしまった場合の補修は、行けるメンバーが見に行く形でやってみることにしました。実際に始めてみると、利用者さんのマナーがすごくよかったです。網が一部壊れた時も、自主的に修理してくださる方がいて。「真岡市民、すごい!」と思いました。

最初は1ヶ月の期間限定で考えていたのですが、「続けて欲しい」という要望があってもう1ヶ月延長することに。「やめないで」と言ってもらえて嬉しかったです。利用者さんにアンケートをした時も、「こういうのが欲しかった」と喜んでもらっていることがわかり、やってよかったと思いました。

自分のつくったもので喜んでもらえたことに加え、場所に新しい価値を作れたことも嬉しかったですね。ドッグランをつくった河川緑地や二宮コミュニティセンターは、それまであまり活用されていませんでした。でも、「ここでこんなことができるなら、自分も何かやりたい」「こんな企画はできないの?」と言ってきてくださる方が出てきていて。そういう意識をつくるきっかけになれてよかったです。

設置したドッグラン。最終的に、河川緑地RIVER+と、二宮コミュニティセンターの2箇所で実施し、たくさんのわんちゃんが訪れた。

ーやってみて、ご自身に変化はありましたか。

ちょっと自分に自信が持てるようになりました。最初は不安しかなかったけれど、「自分にも人を楽しませることができるんだ」「人やまちに貢献できるんだ」と感じられるようになったんです。以前より自分の意見を発言できるようになりましたね。

だからこそ、那須塩原のプロジェクトに参加する一歩を踏み出すことができました。このプロジェクトでは、運営のお手伝いやファシリテーションなどをしています。まちつくでの経験があるからこそ、何をしていけば良いのかがわかるんです。例えば、まち歩きをした後お茶を飲みながら話し合ったような、リラックスできる場づくりを心がけたり。場所に興味を持ってもらい、メンバー同士が仲間になりやすくするために、パブリックサインをつくるワークショップを企画したり。真岡での経験が生きています。

やりたい」を引き出し一歩踏み出せる場づくりを

ー最後に、阿藤さんが今後やりたいことを教えてください。

今後もまちづくりに携わっていきたいと思います。自分が意見を出すこともですが、まちに住んでいるいろいろな立場の人たちから「やりたい」「こんなものが欲しい」という意見が出てくるのが楽しいと感じます。それを引き出して支え、実現するためのお手伝いがしたいと感じています。

特にやってみたいのは、地域の大人が活躍できる場づくりですね。今、いろいろな地域で若者を活躍させようという動きがありますが、一方でまちつくを見ていると大人の熱量がすごいなと思うんです。そんな大人の方は、隠れているだけでいろいろな地域にいるのかもしれません。そういう方々が力を発揮して、若者と一緒にやりたいことを叶えながらはっちゃけられる場がつくれると良いんじゃないかなと考えています。

それから、市政に携わってみたいです。真岡でまちつくに参加して、市職員のイメージが変わりました。これまで市職員というと堅いイメージがあり、若者を巻き込む取り組みがあっても、市から一方的に意見を求められる感じがありました。でも、まちつくの職員の方は親しみやすさがあって、「ドッグラン、今日の夕方はこんな人が使っていたよ」などこまめに連絡もくださって。みんなで一緒に作ろうというスタンスだったんです。気軽に相談してもいい空気がありました。そんな職員になりたいなと思っています。

まずは4年生の1年間。昨年は真岡のまちつくのプレイヤーとして楽しんだので、今年は真岡でも那須塩原でも、まちの人たちが楽しめる場づくりをしていきたいですね。私も最初の一歩を踏み出すときは勇気が入りました。でも踏み出したら、前よりも自分に自信を持つことができた。だからこそ、一歩踏み出せない人をサポートしたいと思っています。

取材、文章、写真 : 粟村千愛(真岡市地域おこし協力隊)