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「やってみたい」の一歩目を踏み出す場所に。失敗も共有しながらつくる、真岡のまちづくり拠点

真岡市の市役所前通りに、青いタイルが印象的な2階建て屋上付きの建物があります。数か月前から足場が組まれ、工事をしているのを目にした方も多いのではないでしょうか?実はここ、真岡市がまちづくり拠点としてリノベーション中なんです!!!

12月末から、土曜日10時~15時に、リノベーションワークショップを行ってきました。今回はこの拠点が、どのようにつくられ、どんな場所になっていくのかお伝えします!

拠点づくりを主導してきた、真岡市地域おこし協力隊のなべちゃんこと渡部真子さんと、市職員の林大輔さんにお話を伺いました。聞き手は地域おこし協力隊のあわっちこと粟村千愛でお送りします。

渡部真子(わたなべ まこ)
真岡市地域おこし協力隊。2022年4月に着任し、ドッグトレーナーとして、「犬と人が仲良く暮らせるまち」を目指し活動中。高校生、大学生が長期休みに小中学生の宿題をサポートする「寺子屋ドーナツ」のマネージャーや、まちなか保健室で開催している「スマホ相談会」の企画運営も担当。


林大輔(はやし だいすけ)
1975年生まれ。兵庫県明石市出身。東北大学教育学部を卒業後、1998年に真岡市役所入庁。真岡まちづくりプロジェクトの発起人。NPO法人TSUKURU MOKA監事。社会教育士。


年を重ねたまちに新しい価値を

粟村:最初に、拠点を作ろうと思った経緯を教えてください。

:2021年度から真岡まちづくりプロジェクト(以下、まちつく)で公共空間の利活用を進める中で、広い緑地や文化財を対象としていたので、もっと小ぶりな雨が降っても活動しやすい全天候型の施設が欲しいと思っていました。学生のやりたいことを聞く中で、空き家や空き店舗を活用して居場所をつくりたいという意見もあったので、それを実現したいという想いもありました。

市としても、まちに空き家や空き店舗が増える中で対策を求められています。特に現在リノベーション中の物件がある寿町のあたりは、昭和になって最初に区画整理をした地域。約60年が経ってまちも人も高齢化も進む中で、新しい価値を生み出さなければならないけれど、それができていない現状がありました。建物の価値を残しつつ新しいものをつくる、モデルケースの一つとして拠点づくりを始めました。

粟村:行政で民間の物件を借り上げて、リノベーションしているんですよね。市の承認を得て、物件を確保するのは難しくなかったですか。どういう風に進めましたか?

:2025年春には、市役所通りに新しい複合交流拠点がオープンします。それに向けて市の中でも、ただ箱物を作るだけではなく、周辺市街地の活性化を図るという気運が高まっていました。これまでのまちつくの活動で、場所があればいろいろな取り組みを仕掛けられるということもわかっていたので、政策的にはそこまで難しくはなかったです。

ただ、物件は個人との交渉なので、難しいかなと思っていました。しかし実際は、場所も見た目も良いと思っていた物件の地権者さんにお話ししたところ、一発OKで決まりました。

粟村:地権者さんがお知り合いだったなど、つながりがあったのですか?

:いえ、面識のない方です。建物の登記簿を見て、「市役所ですけど、借りられませんか」と。

粟村:実際にピンポンされたんですね!

:そうです!行ってみたら、「だめじゃないですよ」と。ほとんどNG条件もなく貸してくださいました。聞いてみると、貸したい気持ちはあったけれど、トイレや窓など不具合があるところを直してまで貸すのはハードルが高かったそうで。それなら自分たちで改修するので、と交渉してお借りすることができました。先方が貸しやすい条件をお聞きするのも大事かもしれませんね。あとは、見て終わるのではなくピンポンする、一歩踏み出すことが大切かなと思います。

▲リノベーション前の物件


ニーズから設計する

粟村:いま実際に工事をしていますが、どんな場所にするかは、どうやって決めていったのですか。

渡部:2023年の7月ごろに、空き家や空き店舗に興味があるまちつくのメンバーとワークショップをしました。高校生から大人まで集まって、借りる前の物件に入らせていただき、1階から屋上まで実際に見て「ここで何をやりたいか」を考えたんです。やりたいことを付箋に書いて一人ずつ発表したり、画像を探してイメージを共有したりしました。

:いろんな案が出ていたよね。

渡部:屋上にドッグランを作りたいとか、サウナ、BBQとか…(笑)。その中で、キッチンを備えたイベントスペースや、作業場となるワークスペース、郵便物の受け取りができるシェアオフィスなどがあれば利用したいという声があり、アイデアを形にしていきました。

まちつく大人メンバーの岡さんが図面を引いてくれて、伊澤さん、大瀧さんが手直ししながら模型をつくってくれました。模型があることで出来上がりのイメージが共有できてよかったです。

:9月ごろには設計図が完成して、11月下旬には業者が決定。12月からリノベーションのワークショップを始めました。

粟村:業者に発注するのではなく、はじめからリノベしようと考えていたのですか?市役所の職員の方がリノベしているのはあまり見ないような…。

:うーん、業者さんに頼んで出来上がりを見てわあすごい、という感動もあると思いますが、やったことのないことだし、自分たちでやったほうが面白いかなと思って。

渡部:面白い!自分が関わったものだと思い入れも残りますし。

:たとえば工業高校の子たちにも声をかけましたが、実習はあっても実際の物件を扱う機会はほとんどないと思うんです。普通科の高校だとそもそも実習の機会もなかなかありません。高校生に体験の場を用意したい気持ちもありました。

プロのすごさと安心感


粟村:リノベーションはどのように進めましたか。

渡部:12月に開始して、初回は床や窓の大掃除をしました。2回目からペンキ塗りに入り、1階の壁、天井、階段から2階の壁、天井と進めて、8回目から外壁作業に入りました。電気工事も始まっています。

粟村:自分たちの手でやってみて、特に印象的だったことは?

渡部:プロの人の仕事を間近で見られるのがよかったです。足場を組んで外壁をつくっていく光景をこんなに近くで見られることはなかなかないですし、マンツーマンでペンキの塗り方を教えてもらう機会もないと思います。津久井塗装の津久井さんは手首の使い方が全然違うんですよ。あんなに早くきれいに塗れないです。一緒に活動している伊澤さんやなるさん、上澤さんの普段とは違う顔も見えて、かっこいいなと思いました。

やってみて、大変さもよくわかりました。特に天井塗りは、翌日全身筋肉痛になりました…。

:ペンキを塗るだけでも大変なのに、ミケランジェロはなんで天井に絵を描こうなんて思ったんだろう?

渡部:やりはじめて後悔したんじゃないかと思います

:描いてから天井に貼った方が絶対速いよってね。そんなこと考えたこともなかったですが、自分でやってみると偉大さがよくわかりました。

粟村:毎回、市民の方からも参加者を募って行っていましたね。

渡部:小学生から大人まで、延べ約150人が参加してくれました。真岡に引っ越してきて地域活動をしたいと考えていた主婦の方や、サッカーチームの大学生、まちつくに参加してくれている高校生やお友達、まちづくりに関心のある方など、本当にいろいろな方が来てくれています。

リノベーション自体に興味があるというより、友達や知らない人に会えるし、なんか面白そう、と参加してくださる方がほとんどでした。初対面の方もいますが、作業を通してコミュニケーションがとれるので、終わるころには仲良くなっているんです。みんなで一日通して作業して、ペンキを塗った壁が真っ白になっているのを見ると達成感があります。

久保田さんがご飯を作ってきてくれることもあり、おでんやミネストローネなどおいしいご飯をみんなで食べる体験もよかったです。同じ釜の飯を食べて、「難しいね、プロってすごいね」と言い合って、共有できるのが楽しいですね。

:リノベーションという目的があるから話が弾むし、みんな初心者だから「うまくできなくても大丈夫」という安心感があるんです。はみ出しちゃったら拭けばいいし、「そこも白で塗っちゃえ」という感じ。細かいところはプロがサポートして支えてくれます。最初は緊張してうまくやらなきゃと思っている参加者の方も、途中で「こんなかんじでいいんだ」と気づいてサクサク作業しています(笑)。

失敗しても大丈夫。一歩目を踏み出す場所に

粟村:いよいよ足場も外れて、拠点の概要が見えてきました。今後どんな場所にしていきたいか、どんな風に使ってほしいか教えてください。

渡部:「やってみたい」と思ったらチャレンジできる場所にしていきたいです。

初めてやることは勇気が要ると思いますが、誰かがここでチャレンジしているのを見たり、一緒にやれそうな人とつながったりして、「自分でもできるかもしれない」と一歩踏み出せたらいいなと思います。

あとは、日常生活の中でちょっと寄って、集まって話せるような場所にしたいですね。そんな場所をつくることが、私のチャレンジかなと思います(笑)。たとえば、地域のおじいちゃんおばあちゃんが集まって、世間話できる空間をつくるとか。

協力隊になってから気づいたのですが、いろいろな世代の方のお話を聞いていると自分とは違う考えを知ることができて面白いです。気軽な雑談の中で、その人がやりたいことも言葉になって出てくるかもしれません。誰でもやりたいことって持っていると思うんです。言葉にして人と共有することで、やりたいことが実現しやすくなるといいなと思います。

:このまちづくり拠点も、初心者が集まってやってみることから始まっていて、うまくできなくてもみんなでつくることを大事にしてきました。

今の時代、うまくできないと批判されたり、クレームになったり炎上したりすることもありますが、その一方で、完璧でなくてもやってみて形にしたものが喜ばれる側面もあると思うのです。まちつくやこの拠点では、「うまくできなくてもまずやってみる」ということを大事にしたいと思っています。

うまくいかなくても、今回のペンキ塗りでミケランジェロのすごさがわかったみたいに、うまくできる人のすごいところがわかるようになるし、じゃあ次はどうしようと考えられるようになる。やる前はそれもわかりませんから。

あとは、人と一緒にやることも大切ですね。一人で考えていてもできないことが多いけれど、人と一緒ならできることが増えます。たとえば10人が一日で作業した成果と1人が十日作業した成果は同じかもしれないけれど、楽しさが全然違いますよね。一緒に話しながらつくっていくこと、うまくできないことこそ共有することが大事だと思うのです。

私たちもうまくできない中で試行錯誤していますから(笑)、うまくできなくても良いという安心感があるし、サポートしてくれるプロもいます。失敗しても大丈夫、まず一歩踏み出して飛び込んでみる。そんな場所にしていきたいなと思っています。

渡部:みんなでアイデアを出し合いながら作ってきた場所なので、きっとおしゃれな空間になって輝きを放つと思います!前を通った時に覗いていただくだけでもいいですし、工事中もオープン後も、気軽に遊びに来てください。

粟村:お二人ともありがとうございました!まちづくり拠点は、 3月末から少しずつ実験的に使用していくとのこと。どんな場所になるのか楽しみです!



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